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七文字しりとりマニュアル第5版

はじめに

 七文字しりとりとはその名の通り、七文字の単語によるしりとりを意味する。単純なルールと裏腹に、奥深い戦略が要求される高度な知的ゲームとして知られている。七文字しりとりは2009年に創始されて以来、10年以上にわたって多くの人々に親しまれてきた。それに伴い七文字しりとりは、多くの人々が平等に楽しめるような、ルールの一般性が求められるようになってきた。そこで本ページでは、七文字しりとりのルールについてまとめ、紹介している。
 七文字しりとりマニュアルでは七文字しりとりのルールの他に、七文字しりとりの戦略や、七文字しりとりの歴史について解説している。古参の七文字しりとりファンだけでなく、七文字しりとりビギナーの方にも充実の内容となっている。

目次

1. 七文字しりとりのルール
  [1-1] 基本ルール
  [1-2] 特殊ルール

2. 七文字単語の許容範囲
  [2-1] 組み合わせ単語の許容範囲
  [2-2] 略語の許容範囲
  [2-3]「藤岡弘、」問題
  [2-4] 一般的な指標としての予測変換機能の利用
  [2-5] 利用可能な七文字単語の最終判断

3. 勝利のためのストラテジー
  [3-1] ストックの増やし方
  [3-2] 増やしたストックをいかに使っていくか
  [3-3] スピーディな戦い方に欠かせない「カウンター」
  [3-4] 姑息だが効果的な単一文字攻め

4. 七文字しりとりの拡張
  [4-1] 曖昧な単語は全面的に禁止する
  [4-2] 時間制限を設ける
  [4-3] 七文字しりとり一人プレイ(タイムアタックモード)
  [4-4] 七文字しりとり三人プレイ
  [4-5] 「二人同時に相手してやるぜ」
  [4-6] 七文字しりとり団体戦(2on2モード)

5. 七文字しりとり発展の経緯
  [5-1] 七文字しりとりの誕生
  [5-2] 激震が走った「ず」騒動
  [5-3] 改良を重ね、生まれる新ルール
  [5-4] 七文字しりとりの全国進出
  [5-5] 七文字しりとりの現在

6. 全日本七文字しりとりの会

7. 最後に


1. 七文字しりとりのルール

[1-1] 基本ルール

 七文字しりとりの最も根本となるルールは、以下である。
・七文字の名詞のみで行うしりとりである
使用できる単語は「七文字」の「名詞」のみである。例えば「ヴァイオレント」は、形容詞のため使用できない。通常のしりとりで「うつくしい」という単語が使用されないのと同様である。

長音および促音の扱い

 長音や促音(「―」や「っ」「ぁ」など)については、以下のように定められている。
・長音や促音は字数に含める
・長音で終わる単語は、その前の文字から続ける
・促音で終わる単語は、その大きい文字から続ける
 七文字しりとりでは、長音符「ー」や、促音(小さい文字)も一文字としてカウントすることとしている。例えば「スイートルーム」「ウォシュレット」などは、「ー」や「っ」「ぉ」「ぅ」も字数に含めるため、七文字単語として使用できる。
 また、長音は前の文字から続けることとし、促音はその大きい文字から続けることとしている。例えば「ベビーシッター」の場合、「べびいしったあ」として「あ」で続けるのではなく、「た」で続ける。「カモフラージュ」という「ゅ」で終わる単語は、次は「じゅ」で続けるのではなく、「ゆ」と大きい文字で続ける。

「ヴ」の扱い

 「ヴ」で終わる単語の次は「ぶ」でも「ヴ」でもよい。どちらにするかは、次に続けるプレイヤーに決定権がある。「ヴ」で終わる単語とは、「クリスマスイヴ」など、英訳するとvを子音とする文字で終わるものとされる。次のプレイヤーは「ブロードバンド」と「ぶ」で続けてもよいし、「ヴィヴァルディ」と「ヴ」で続けてもよい。

[1-2] 特殊ルール

 基本ルール以外に、特殊ルールが定められている。ただし、この項目のルールに関しては七文字しりとり創始初期に慣例的に定まったローカルルールや、七文字しりとりを行う上でのマナーの要素を含んでいる。

 (1)「ず」ルール
 (2)「ルイ」ルール
 (3)「みかんジュース」ルール
 (4)「ザ・ドラえもんズ」ルール

(1)「ず」ルール

 「ず」は七文字の単語が少ないため、「ず」で終わる単語でゲームを開始してはならない、というルール。
 基本的にゲームの開始の単語は何でも良いが、いきなり「スライスチーズ」などレベルの高い単語で始められると、二番手から詰まってしまうことがある(「ず」が高難易度であることは後述する)。そのようなゲーム序盤からの停滞を防ぐためのルールである。これはルールというよりもマナーの問題であり、他にも「ず」だけでなく、「ぬ」「ぞ」などの難しい文字で終わる単語で初めるのもあまり推奨されない。
 ところが昨今は「ず」で始まる単語も続々発見されており、「ず」ルールの必要性は疑問視されつつある。

(2)「ルイ」ルール

 「ルイ十世」「アポロ三号」など、数字を変えて複数生成できる七文字単語の使用は禁止するというルール。ただし「ルパン三世」はこの限りではない。
 「る」は、単語数も少ない上に「る」で終わる単語も多いので、七文字しりとりにおいて狙うべき文字として昔から注目されていた。そんなとき「ルイ十世」という単語が出たことがあった。これを許可してしまうと「ルイ九世」など、他のルイたちが芋づる式に出現してしまい、「る」の低難度化および「い」の出現頻度の著しい上昇が懸念される。そのような事態を防ぐために作られたルールである。同様に「アポロ三号」など、数字を変えればなんとかなるような単語は全面的に禁止している。

(3)「みかんジュース」ルール

 A+B的な組み合わせで生成される、強引な七文字の単語を使用してはいけない、というルール。
 例えば、「みかんジュース」は一般にあまり用いられず、どちらかといえば通常は「オレンジジュース」と言われることが多い。「みかんジュース」を許可してしまうと、「ライチジュース」「よもぎジュース」などといった単語が無数に生成される可能性がある。同様に、「○○駅」「○○市長」は、○○部分を変えれば無限に七文字単語が生成できてしまい、一般的でない七文字単語が乱立してしまうことが懸念される。こういった事態を避けるため、「A+B」のような構成の七文字単語には、制限がかけられることがある。

(4)「ザ・ドラえもんズ」ルール

 「ザ・ドラえもんズ」のように、「ザ・○○○○○ズ」のようなグループ名は禁止する、というルール。
 これを認めると、海外のバンド名などから、「ざ」で始まり「ず」で終わる恐ろしい単語が次々に生み出されると考えられるためである。しかし「カーペンターズ」のように、theが付きそうで付かないものもある。これらはその都度公式な情報源でチェックするなりして、確かめてから使って欲しい。


2. 七文字単語の許容範囲

 特殊ルール(3)「みかんジュース」ルールで触れたように、七文字単語はその性質上、強引であまり一般的でない単語が使用されてしまうことがある。そこで、使用できる七文字単語には、以下のように制限がかけられることが多い。

 1. 実際に存在し一般に用いられる単語であること
 2. 参加者全員が意味を理解している単語であること
 3. 複数単語の組み合わせで強引に構成された単語でないこと

1. 実際に存在し一般に用いられる単語であること

 当然ながら、架空の言葉はしりとりで使用できない。

2. 参加者全員が意味を理解している単語であること

 七文字単語は、全プレイヤーが知っている単語でなければならない。これは、架空の七文字単語を、さも実在する高度な単語として使用される恐れがあるためである。
 「参加者全員が意味を理解している」という点がポイントで、使用可能な七文字単語は参加しているプレイヤーによって変化する。例えば、高校生の理系クラスでは「固有ベクトル」「インベルターゼ」が使用出来るが、文系クラスでは使用出来ない可能性がある。さらに言えば、参加者にポケモンを知らない人がいたら、「オーキドはかせ」「マスターボール」を使用することができない。芸能界やテレビに全く関心のないプレイヤーがいる場合「松本人志」「めざましテレビ」は使用できない可能性がある。

3. 複数単語の組み合わせで強引に構成された単語でないこと

 特殊ルール(3)「みかんジュース」ルールで触れたように、A+B的な組み合わせで生成される、特殊な七文字単語は使用を推奨されない。また、当然ながら「トカゲのしっぽ」のように「の」で修飾した単語や、「黄色いトマト」のように形容詞を伴う単語も使用できない。

[2-1] 組み合わせ単語の許容範囲

 特殊ルール(3)「みかんジュース」ルールで制限されるような、複数単語の組み合わせで構成された単語は使用制限がかけられることがある。本項ではその許容範囲について解説する。

「の」を認める場合

 「の」で2単語を接続した単語は基本的に禁止されるが、例外的に認めるのはそれ自身が熟語として用いられていたり、固有名詞化されている場合である。例えば「諸刃のつるぎ」「星のカービィ」「午後の紅茶」は、それぞれ熟語・ゲームのキャラクター名・清涼飲料水の商品名であるため、「の」を含有していても七文字単語として認められる。ただし、プレイヤーの中に「星のカービィ」「午後の紅茶」を知らない者がいる場合はこの限りでない。

形容詞的関係があっても許容されるケース

 「美し国三重(うましくにみえ)」は、「美し国」が形容詞的に「三重」にかかっているが、「美し国三重」全体でひとつの標語となっているので、使用を認められる。
 他にも「二酸化炭素」など化合物名も議論の余地がある。「二酸化炭素」を許可すると「硫化クロム」「三酸化鉄」などどんどん単語が生成される恐れがある。特殊ルール(2)「ルイ」ルールと同様である。一般的には、その知名度から「二酸化炭素」「過酸化水素」などは認められることが多い。

A+B的な組み合わせ単語について

 七文字という長い単語は、どうしてもA+B的な組み合わせ関係にある単語が多い。例えば、A=「大」とすれば、「大恐慌」「大流行」「大盛況」が該当する。またB=「ソース」とすれば、「ウスターソース」「クリームソース」「オーロラソース」などといった単語が存在する。これらの単語はあまりにも一般的であり、これらまで使用不可となればしりとりが成立しない可能性がある。
 そのため、基本的には、A+Bの七文字単語が一般的なものであれば使用を認められることが多い。例えば「ウスターソース」などは一般的に用いられる使用可能単語とされるが、「いちじくソース」は存在しているかも疑わしく、使用が制限される。また、AおよびB部分が組み合わせで無限に単語生成できる場合も、使用を制限される。例えば、B=「駅」「市長」とすれば、「北大路駅」「上野市長」などといった単語が無限に生成されてしまう。

[2-2] 略語の許容範囲

 一般に、七文字の単語の中での省略語を禁止している。例えば「農水省」という単語は、貴重な「の」の単語として使いたくなるが、農水省は「農林水産省」の略なので使用は認められない。一方で、「パソコンデスク」はもはや「パーソナルコンピュータデスク」とは一般に呼称されない。短縮語がむしろ一般的となっているものに関しては、略語の使用を認める。
また、アルファベットの略語も同様である。例えば「URL」は「ゆーあーるえる」と読める。しかしアルファベットでの略語は七文字単語とはいいがたく、使用を認めないこととする。

[2-3]「藤岡弘、」問題

 藤岡弘、に読点が含まれているのは周知のとおりである。この場合、読点は文字数に数えないものとし、「藤岡弘、」の使用を認める。なお、次は「し」で続ける。

[2-4] 一般的な指標としての予測変換機能の利用

 パソコン・スマートフォンの文字入力では、少ない文字から単語を予測する予告変換機能が備わっている。この機能は、七文字の単語を探すのに有用である。また逆に言えば、予測変換として出てくる単語は、一般的に受け入れられている単語であって、七文字しりとりで使用できると推測できる。
 近年、「ず」の単語で「随想集」「随筆集」というものが発掘された。当初私は、随想を集めた本だとか、随筆を集めた本だとかをあまり見たことがなかったので、「みかんジュース」ルールに則ってそれらの申し立てを却下しようとした。
 ところが、「随想集」「随筆集」を入力しようとすると、Google日本語入力の予測変換では、「随想集」「随筆集」が現れたのである。ここでは私の個人的な感性よりもGoogle日本語入力の一般性を優先し、「随想集」「随筆集」の使用をとりあえずは認めることとした。
 だが、Google日本語入力の予測変換に出てくる単語はすべて認めるというわけではない。例えば予測変換で「ペリー来航」「テスト対策」が現れるが、あまりに強引で不自然なため認められないことが多い。少なくとも「(予測変換に出る単語)⇒(使用可能な単語)」の論理は成立しない。ちなみに「随想集」「随筆集」が提案されたときに同時に「図形表示」も提案されたが、これは一時留保したものの、やはり不自然すぎるとしてとりあえずは却下した。

[2-5] 利用可能な七文字単語の最終判断

 ここまで長々と述べてきたが、依然として七文字単語の許容範囲についての明確な定義はされないままである。最終判断は、七文字しりとりの監督者である私(会長:ウォシュレット)の裁量によってなされる。


3. 勝利のためのストラテジー

 七文字しりとりに勝利するための戦略とは、簡単にいえば「七文字しりとりで使える七文字単語(ストック)を増やして、効率的に使っていくこと」である。本章ではこの点について解説する。

[3-1] ストックの増やし方

 七文字しりとりで有効な回答をするには、単語のストックが重要である。七文字しりとりは通常の七文字しりとりと比較して思考時間が長くなるが、ストックが豊富で間髪入れない回答ができれば相手に心理的プレッシャーを与えることが出来る。毎ターン数秒単位で回答をし、相手をうまく牽制できれば、威圧された相手は簡単な文字でも数分間悩んでしまう、ということもありうる。それほど七文字しりとりはスピードが勝利を左右するゲームである。
 では、ストックを増やすにはどうすればよいのか。実は、日頃から七文字しりとりに興じていれば自然とストックは増える。さらに、七文字しりとりをやり込むと日常でも無意識的に七文字の単語を探してしまう。これを七文字的思考症候群(LNS:Looking-for-Nanamoji Syndrome)と呼ぶ。LNSを発症すると、例えば「彼女欲しいなぁ」と考えていても、「彼女……英語で言うとガールフレンド……あ、ガールフレンドって七文字だな」と七文字の単語につなげてしまうのである。LNSは、七文字しりとり上級者はもれなく発症した経験がある精神疾患である。LNSによってストックはすぐに増えていくし、多くのプレイヤーはLNSによってストックを増やす。
 しかし、能動的に七文字の単語を探すのは易しくない。そこで本項では、最も効率的な三つの七文字単語探索法を紹介する。

芋づる法

 単語を芋づる式に探索する方法。例えば先述の例を利用すると、まず「ガールフレンド」が出てきたら、その対義語である「ボーイフレンド」も七文字であることに気付くのは容易である。さらに「ガール」から「ガールズトーク」にも発展させることができる。このように、思い浮かんだ一つの単語から関連する単語を芋づる式に探していく方法が「芋づる法」と呼ばれている。これは日頃から七文字の単語を探すのに有効な方法である。

テーマ法

 あるテーマを設定してそれに関連した単語を発掘していく方法。例えば「京都の名所」とテーマを設定すれば、「京都御所」「哲学の道」「大文字山」などが発掘できる。方法としては芋づる法と似ているが、有効な方法である。

ルックアラウンド法

 周りを見渡して七文字単語を探索する方法。私たちの生きているこの世界には、意外にも多くの七文字の単語が存在している。冷蔵庫を開ければ「ポカリスエット」が見つかるかもしれないし、洗濯物を干すときには「洗濯バサミ」が思い浮かぶだろう。日頃から七文字の単語に気を配っておけば、自然と見つかるものである。

[3-2] 増やしたストックをいかに使っていくか

狙うべき文字とは

 七文字しりとりの経験を積んでいくと、自ずと「攻撃的な単語」と呼ばれる強い単語が分かってくる。攻撃的な単語とは、「ず」など単語の乏しい文字で終わる単語である。しかしそれだけが重要ではない。実際には、その文字で終わる単語がある程度存在しないと成立しない。例えば「ぬ」から始まる単語は殆ど無いが、逆に「ぬ」で終わる単語もないので、それほど「ぬ」の対策は考えなくてよい。そのような二つの条件を満たす文字として思い浮かぶのが、まず伝統的に圧倒的な強さを誇る「ず」である。他に狙いやすいのが「つ」「む」「る」「ぐ」「ぷ」であり、あとは狙いにくいが狙えば効果的なのが「の」「ぎ」「ざ」「じ」「び」などである。また、究極に狙いにくいがほとんどストックのないであろう文字を紹介しておくと、「に」「ぬ」「へ」「め」「も」「ぞ」「ば」「ぼ」「ぴ」である。

思いついた単語をすぐ使うべきではない

 ストックが増え、攻撃的な単語もいくつか思いつくようになるが、それをどんどん使っていくのも賢明ではない。 「ず」を例にとって説明しよう。先程も述べたように、「ず」のストックは一般的には十個程度が限界である。「す」で回されたらすぐ「スライスチーズ」で返しても良いが、そうすると貴重な「ず」のストックがひとつ減ってしまう。相手がどんどん「ず」を使ってくるプレイヤーならばこの戦術はあまり意味が無いが、どちらも温存していると、すぐにゲームが終わることもなく長期戦が楽しめる。実力のある相手との長期戦は非常に有意義である。自分ですぐに「ず」をすべて尽きさせてもよいが、これは次に「ず」が出れば自分も相手も終わるという一触即発の諸刃の剣である。
 また、自分が考えついた新しい単語は温存しておくべきである。自分だけが使うことができる単語である。オセロでも、自分だけが置くことができて相手が置くことができないマスがあれば、そういうマスはすぐに潰さずにあえて残しておくのが定石であるが、七文字しりとりもこれと同様である。自分だけが使える単語は、どうしても行き詰まった時に使えるように残しておこう。

[3-3] スピーディな戦い方に欠かせない「カウンター」

 カウンターとは、「同じ文字で始まり同じ文字で終わる単語で返すこと」と定義される。例を挙げると「運動場」「トレンチコート」などである。カウンターが特にその威力を発揮するのは二人プレイのときで、相手に回した文字が自分に返ってくるのは相当なダメージである。先程、素早く回答すると相手に心理的ダメージを与えられると述べたが、カウンターと組み合わせるとその相乗効果でより効果的である。
また、「う」のカウンター単語の多さは周知のとおりである。上級者同士の戦いになると、熾烈な「う」のカウンター合戦が繰り広げられる。これを「う・スパイラル」と呼ぶ。

[3-4] 姑息だが効果的な単一文字攻め

 普通のしりとりでもよく使われる戦術だが、あるひとつの文字だけを攻めるのは有効である。ただ七文字しりとりにおいて注意すべきは、やはりその単語の絶対数の少なさゆえに、ひとつの文字を集中的に潰すのが容易でない点である。そんな中、狙い目の文字は「う」「る」「ぐ」である。
「う」で終わる単語は非常に多い。驚くほど多い。「う」で始まる単語もかなり多いのだが、「う」で終わる単語のほうが多い。七文字しりとりの格言のひとつに『「う」のストックはいくらあっても足りない』というものがある。それほど「う」は狙いやすい文字である。また、「う」が人名につなげにくいのも、「う」で攻めやすい理由のひとつである。
 「る」「ぐ」で終わる単語は「う」ほど多くないが、「る」「ぐ」で始まる単語は少なく、狙いやすい。初心者はまず「る」から始まる単語の少なさに困惑することだろう。「ぐ」は「~ing」で日本語化されている単語を集めれば比較的攻めやすい。「ぐ」で始まる単語は少なく、上級者でも戸惑うだろう。


4. 七文字しりとりの拡張

 七文字しりとりには、通常ルールから派生したゲームが存在する。

[4-1] 曖昧な単語は全面的に禁止する

 固有名詞や専門用語、および「みかんジュース」ルールに関連した強引な組み合わせ単語をすべて禁止した七文字しりとりである。曖昧な単語はすべて制限されているので、本格的な戦いが行われることが期待される。いつか七文字しりとり全国大会を開催することがあれば、このルールを採用することになるであろう。

[4-2] 時間制限を設ける

 初期の七文字しりとりは45秒の時間制限があったが、それと同じものである。初期のルールなので、ある意味「レトロ七文字しりとり」ともいえる。制限時間を過ぎれば罰ゲームをやってもよいが、上級者ならばシビアにその場で強制終了としてもよいだろう。また、制限時間については、以下のようにすることが多い。

  45秒:中級者向け
  15秒:上級者向け
  5秒:免許皆伝

[4-3] 七文字しりとり一人プレイ(タイムアタックモード)

 一人で七文字しりとりを続けて、「ず」で終わる単語を5回言うまでの時間を競う。なぜ5回かと言うと、プレイヤーの間で一般に知られていた「ず」から始まる単語が、第二次七文字しりとりブーム時に5個だったためである(もちろん現在ではこの限りではない)。これは一人でも楽しく七文字しりとりができるので、電車に乗っている時や退屈な講義を受けているときはぜひやってみてほしい。クリアタイムが60秒を切れば上出来である。

[4-4] 七文字しりとり三人プレイ

 前の項で述べた七文字しりとり戦術は、基本的に二人プレイの七文字しりとりを想定して記述している。二人プレイでは前述のように相手の答えにくい攻め方をするのが基本であるが、三人プレイの場合はその限りでない。逆に、簡単で攻めやすい文字を狙って次のプレイヤーにトスすることで、さらに次のプレイヤーを陥れる、という戦術も考えられる。

[4-5] 「二人同時に相手してやるぜ」

 上級者vs中級者以下の七文字しりとりでは、待ち時間の差ゆえに上級者が暇を持て余してしまうことが多い。そこで、上級者Aと、中級者以下プレイヤーのBおよびCがいるとき、Aは二人同時にAvsB、AvsCの七文字しりとりを行う。これにより、待ち時間のバランスがとれることがある。ただ、これは七文字しりとりに相当熟練したプレイヤーでないと円滑にゲームを進めることはできない。

[4-6] 七文字しりとり団体戦(2on2モード)

 二人チームで行う七文字しりとりである。チームそれぞれに30秒の時間制限を設け、時間内にチームのどちらかが答え、二人でバランスよく答えたチームが勝ちとする。30秒以内に答えられなければ、回答権は相手チームに移る。勝敗の判定法としては、参加者4人の回答数をそれぞれ記録しておき、ゲーム終了時に、チーム二人のうち回答数の少ない方の人の回答数が、相手のチームの回答数の少ない方の人の回答数より多ければ勝ちとなる。
 例えば、Aチーム(メンバー:a1、a2)と、Bチーム(メンバー:b1、b2)のゲームを考える。ゲーム終了時に、次のような結果になったと仮定する。

 プレイヤー(回答数)
  a1  (73)
  a2  (55)
  b1  (63)
  b2  (61)

 55<61であるので、この場合はBチームの勝ちである。チーム合計の回答数は、Aチーム:128、Bチーム:124でAチームのほうが多いが、チームでバランスよく回答していたのはBチームである。バランスよく回答できたBチームが勝つとなる。自分が思いついたからといって自分本位に答えればよいのではなく、いかにペアとの力量の差を考えて回答できるかがカギである。答えられなければ回答権は相手に移るので、相手が難しい文字で返してきたときは、うまくパスすることも戦略上重要である。


5. 七文字しりとり発展の経緯

 七文字しりとり誕生の歴史を知らずして七文字しりとりに興ずることはできない。ここで、七文字しりとり発展の経緯について紹介する。
 私は高校時代、電車通学の時間が長かったために、様々な暇つぶし用ゲームを開発してきた。列挙すると「ムキムキマッチョゲーム」「名字ゲーム」「特急ゲーム」「大阪環状線っぽい駅名ゲーム」などがある。これらはことごとく流行の兆しさえ見せずに終わったので特に記述するつもりはないが、詳細が気になった人は声をかけてきてほしい。時間をかけて説明する次第である。
 私の発明したゲームの中で最も流行ったのが「七文字しりとり」であった。これは、誰もが知るしりとりの派生ということでルールが単純明快である一方で、奥深くやり込み要素が詰まったゲームであったためと考えられる。

[5-1] 七文字しりとりの誕生

 まず、私が最初に七文字しりとりを提案したのは2009年、高3の夏であった。当時は深い考えもなく、「七文字でしりとりをしたら難しいのでは?」という考えで始めただけであった。親愛なる私のクラスメイトたちは、帰りの電車などで七文字しりとりに興じてくれた。思えば、これがなければ七文字しりとりは発展していなかった。クラスメイトのノリの良さは幸運というべきものであった。
 だんだんと「トーテムポール→ルクセンブルク」「ライオンキング→グリーンピース」など、一定の流れが定式化してきた。だんだんと単語のストックも増え、スムーズな回答ができるようになってきた。そこで我々は45秒という時間制限を設け、さらにはミスした人に「あんまり特徴のない人のモノマネ」という罰ゲームを課した。これは本当に恐ろしいゲームで、特徴のない人のモノマネがうまくできるわけもなく、ほぼ確実にスベるのである。私も「バトミントンの羽根」のモノマネを振られたときはどうしようかと思ったものである。この時間制限+罰ゲーム付きの七文字しりとりを、文化祭の打ち上げの帰りの電車でやったのを覚えている。あの中には初参戦の超初心者もいたのに、思えば悪いことをしたものである。

[5-2] 激震が走った「ず」騒動

 そんな中、ある一大事件が起こった。「スライスチーズ」の登場である。続く文字は「ず」であるが、当時は「ず」から始まる七文字の単語を持ちあわせていなかった。もしあなたが七文字しりとり初心者ならば、一度「ず」から始まる七文字の単語を考えてみて欲しい。驚くほど思いつかないはずである。自力で思いつけば、あなたは七文字しりとり中級者である。一瞬で思いつけばあなたは七文字しりとりのかなりの才能がある。この「ず」の台頭はプレイヤーの間で一大旋風を巻き起こしたが、やがて「ず」から始まる単語が次々と発見されたことにより、騒ぎは沈静化した。ただ今も「ず」の驚異は変わらないままであり、「ず」のストックはこれ以上増えないであろうと一般に言われている。

[5-3] 改良を重ね、生まれる新ルール

 それからだんだんと単語のストックが増えていき、私は個人的に七文字単語集の製作に取り掛かり始めた。すると、七文字の単語をどこまで許容するかということを明確に定義する必要があると考え、使用できる七文字単語に制限がかかるようになり始めた。同時に七文字しりとりがやり込みがいのある戦略的ゲームとして世間一般に認められ始めたのもこの頃である。この頃が「第一次七文字しりとりブーム」の時期である。
 世間は、特に私の3年6組は七文字しりとりが大ブームとなっていたが、11月中旬に私は、七文字しりとり以上に大流行していたインフルエンザに倒れ、一週間ほど学校を休むことになった。それまでは昼休みは皆がこぞって七文字しりとりに興じていたのだが、私が病気を治して学校に戻ったときには、昼休みに七文字しりとりを行うものはごくわずかになってしまっていた。私が休んでいる間に、七文字しりとりブームは終わっていたのである。私はひどく愕然としたが、七文字しりとりを再興させもう一度ブームを起こすために、七文字しりとりの更なる改良、拡張を試みた。
 まず行ったのが、七文字絵しりとりである。その名の通り七文字しりとりを絵でするだけなのだが、これはおもしろい。ぜひやってみてほしい。そもそも絵しりとり自体が結構おもしろい。七文字の単語は「凱旋帰国」など絵にしづらいものも多いので、それをいかに表現するかが重要である。
 そこから次々と新しい遊び方が生まれた。七文字しりとり一人モードが生まれ、受験直前期になると2on2の七文字しりとり団体戦も行った。これは七文字しりとりを趣味とするものが四人以上集まらないとできないので、第2回大会の開催は未だ企画されていない。しかし、非常にやりがいのある有意義なゲームであったと言って過言ではない。この頃が「第二次七文字しりとりブーム」であった。その後私たちは大学受験を迎え、それぞれ違う方向に旅立って七文字しりとりが開催されることも少なくなった。

[5-4] 七文字しりとりの全国進出

 高校卒業後、七文字しりとり創始者の私は大学入学のため京都に拠点を移した。高校時代の七文字しりとりメンバーが散り散りになったため、新天地の京都では七文字しりとりを行うことがめっきり少なくなってしまった。ところが、それでも創始者である私は諦めなかった。当時の私には、七文字しりとりを京都でも流行らせて、いつか京都新聞やKBS京都で取り上げられるという大きな野望があったのである。そこで、全日本七文字しりとりの会が誕生した。
 まずは七文字しりとりを全く知らない人に七文字しりとりを説明し、普及することを試みた。そこで痛感したのが、七文字単語の許容範囲の一貫性の無さであった。多くの友人は七文字単語を探すことに夢中になるに留まるので気づかない者が多いが、一部の人間には七文字しりとりルールの包括性の無さを指摘されることもしばしばであった。
 何より、七文字しりとり初期に半ば定石として使用されていた単語が、一般性をもたせたルールにあてはめてみたときに、許容されなくなってしまっている、という点が問題であった。当然ながらここで「よいではないか」ルールも使用できなくなる。「よいではないか」ルールとは、かつて存在していた七文字しりとり特殊ルールのひとつである。これは、『「よ」で「よいではないか」を用いること』というルールである。これは、「よ」で必ず最初は「よいではないか」と応えなければならないとすることで、ゲーム慣れした上級者を「うっかり」負けさせるためのルールに過ぎなかった。
 私は悩んだ。七文字しりとりを一般性の高いゲームにするということは、私たちが培ってきたものを切り捨てていくということなのだろうか。一般化すなわち抽象化が、数学で言うところの微分なら、「よいではないか」ルールなどは、微分で切り捨てられてしまう定数部分に過ぎないのだろうか。

[5-5] 七文字しりとりの現在

 とにもかくにも、かようにして七文字しりとりは全国進出を遂げた。ルールの粗はいまだ改善の段階であることは否定出来ないが、それでも全く知らない人間をLNS(七文字的思考症候群, [3-1]を参照のこと)に羅患させてしまうくらいには、七文字しりとりを京都でも流行らせることが出来た。
 大学祭の演劇企画では、全日本七文字しりとりの会演劇部が過去4回の演劇公演を行なった。観客動員は毎年トップクラスであり、七文字しりとりと演劇のコラボレーションという前代未聞の芝居の内容も、特に旗揚げ公演では大学祭の演劇企画担当の方に「一番スゴかった」と言わしめたほどであった。
 私や副会長が属していたサークル(全日本七文字しりとりの会ではない)で多くの方々を巻き込んで七文字しりとりをしたことはもちろんのこと、聞いた話ではなんと、私や副会長と何の関わりのないそこそこの規模のサークルで、七文字しりとりが大流行していたとのことであった。それも、自発的に七文字単語集を作るほどの流行りっぷりだそうである。もちろん私や副会長もそのサークルの構成員とつながりを持ったことがない、まさに、七文字しりとりは京都でも一大ブームとなったといって過言ではない。
 やがて私は大学を卒業し、東京に拠点を移動した。東京でも七文字しりとりの普及に勤しみ、関東支部が誕生した。
 そして、現在に至る。かつて私の高校のクラスの友達の一部、そこでの暇つぶしから勃興したただの拡張型しりとりが、いまや見知らぬ人が見知らぬところで興じるほどの一大コンテンツに成長したのである。しかしながら、七文字しりとりはまだまだ発展途上である。まだまだルールに粗があり、まだまだ改善していく必要があるのは言うまでもない。


6. 全日本七文字しりとりの会

 全日本七文字しりとりの会(NNN:Nippon Nanamoji-shiritori Network)は、七文字しりとりの発展と普及を目的として2010年に誕生した七文字しりとりサークルである。現在会員数は若干名であるが、絶賛会員募集中である。もちろん入会費・年会費は無料で、入会するには必要事項を記入して、全日本七文字しりとりの会までメールを送っていただければよい。なお、そこでの個人情報は七文字しりとりにのみ利用し、他の目的には一切利用しない。そのほかこのメールアドレスでは、この七文字単語は使用可能か、などといった七文字しりとりのルールに関する質問も受け付けている。
 NNNには数名の免許皆伝者がいる。別名七文字マスターとも呼ばれる。マスターの資格としては、他のマスターと対等に五秒の七文字しりとりが出来ることである。興味をお持ちであれば、そのうちの誰かに七文字しりとりをタイマンで挑んで欲しい。彼が認めたら、あなたも免許皆伝である。いずれは、オリジナルTシャツの製作、YouTube「七文字しりとりチャンネル」、などが予定されている。なお、会員に課せられる義務や、毎年年末に集まって七文字しりとりをするとかいう予定などは無いので、臆すること無く入会してほしい。


7. 最後に

 ここまで長々と七文字しりとりについて語ってきたが、これで一体どれほどの人に七文字しりとりに興味を持っていただけただろうか。もし全て読み終えた人がいたとしたら、すでに周りを見渡してルックアラウンド法により七文字の単語を探し始めていることだろう。この冊子を通して少しでも七文字しりとりプレイヤーたちが増えてくれれば僥倖である。
 このマニュアルで我々が指摘してきたように、現在七文字しりとり界は、七文字しりとりをより多くの人々に平等に楽しんでもらうために、根底からのラディカルな改革が必要とされている。これから七文字しりとりの未来を切り開くのは、他の人達である。今この文面を呼んでいる、あなたである。私はそのことに期待して、この一冊を締めくくりたいと思う。







七文字しりとりマニュアル
第5版 2021年6月5日
第4版 2019年5月26日
第3版 2013年3月31日
第2版 2010年8月13日
第1版 2009年秋

著者 ウォシュレット(全日本七文字しりとりの会 会長)
協力 クッキングパパ(全日本七文字しりとりの会 副会長)


著者紹介:ウォシュレット
 1991年三重県生まれ。2009年に七文字しりとりを発明。2010年に全日本七文字しりとりの会を設立。全日本七文字しりとりの会会長、競技部長、演劇部主宰。現在では拠点を東京に移し、日々情報発信を行っている。

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